個人と法人の違い⑩ 損益通算
個人事業主には所得税、法人には法人税が課されますが、所得税と法人税の計算手順やルールには違いがあります。特に、法人成りを検討している方はその違いを把握しておくべきでしょう。
個人と法人の違い 第10回では所得税と法人税で異なる「損益通算」について解説します。
個人と法人の所得の計算方法
損益通算の解説に入る前に、簡単に所得税と法人税の計算方法の違いを解説します。
所得税も法人税も、所得に対して課税されるという点では共通しています。ただし、その所得の計算方法に違いがあります。
所得税は、給与所得や事業所得、不動産所得など全10種類の所得をそれぞれ所得別に計算し、合算して計算します。各所得の算出方法は所得ごとにそれぞれ異なります。
一方法人税は、所得の種類といった概念がなく、法人が得た全ての収入と、法人が支出した全ての経費の差額(利益)を元に所得を計算します。
損益通算とは
前項で「所得税は種類ごとに所得を計算し、合算する」と解説しました。では、例えばマイナスの所得があったとしたらどうなるでしょうか。例えば不動産所得や事業所得が赤字になった場合が想定されます。
この場合でも、そのマイナスの所得はその他の所得と合算して計算することになります。例えば給与所得や事業所得がプラスであっても、不動産所得がマイナスであればそのマイナス分だけ所得が小さくなり、税負担も軽くなります。これが損益通算という制度の概要です。
ただし、何でもかんでも損益通算ができるわけではなく、損益通算ができる所得は以下に限定されています。
- 事業所得
- 不動産所得(借入金利子のうち、土地に該当する金額は不可)
- 総合課税の譲渡所得(美術品などの、生活に通常必要でない資産は不可)
- 山林所得
例えば仮装通貨やFXの投資で損をした場合、これらは「雑所得」に該当するため、その他の所得との損益通算はできないこととなります。
なお、損益通算は青色申告だけでなく白色申告の方でも適用可能です。
損益通算の個人と法人の違い
前章で解説した損益通算は、所得税における制度です。不動産所得や事業所得がマイナスであれば、その他の所得と損益通算することで合計所得が減少し、税額も下がります。
ただし、雑所得や一時所得、分離課税の譲渡所得(上場株式、土地建物等)は損失が出ていたとしても損益通算はできません。
一方、法人税には損益通算という概念がありません。冒頭でも触れた通り、法人にはそもそも「所得の種類」という概念がありません。本業の売上も、不動産の売却損益も、利息収入も、全てまとめて「法人の損益」として一緒くたにされます。
つまり、法人は自動的に全ての損益が損益通算されているとも言えます。法人税には損益通算という言葉はありませんが、所得税のように「損益通算できない所得」といった制限がないため、法人税の方が税額計算上やや有利という考え方もできます。
損益通算の特例
先ほど損益通算の対象となる所得について触れましたが、実はそれ以外にも特例として損益通算が認められているものがあります。
マイホームを買い換えた場合の譲渡損失
住んでいたマイホームを売却して新たにマイホームを購入した場合で、旧マイホームの売却について損失が生じたときは損益通算をすることが認められます。ただし、損益通算が可能かどうかはいくつか条件がありますので、以下の国税庁HPで条件を確認してください。
国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm
なお、マイホーム買い換えの損失について、損益通算をしても売却損失が控除しきれなかった場合、その譲渡損失は3年間繰り越しすることができます。
上場株式等の譲渡損失と配当所得の損益通算
上場株式等の譲渡損失が生じた場合、上場株式等の配当所得の金額と損益通算ができます。ただし、配当所得について申告分離課税を選択する必要があります。
なお、損益通算しても控除しきれない譲渡損失がある場合には、その譲渡損失は3年間繰り越して上場株式等に係る配当所得等の金額から繰越控除することができます。
まとめ
損益通算について解説してきました。損益通算は所得税の制度なので法人は無関係ですが、マイホームを売却した際に知識として必要になる可能性もあります。覚えておいて損はないでしょう。
個人事業主の方は損益通算できる所得とできない所得について抑えておくと税金の予測が立てやすくなります。最低限本記事で触れた内容は頭に入れておきましょう。