個人と法人の違い⑨ 減価償却

個人事業主と法人では減価償却のルールが異なります。減価償却費は経費の中でも高額になることも多いため、減価償却の計算方法を間違えて覚えていると利益予測が大きくずれてしまう恐れがあります。個人と法人の違い 第9回では個人事業主と法人それぞれの減価償却のルールを把握していきます。

減価償却とは

減価償却とは、事業用の資産を、取得した事業年度に一括で経費計上せずに、その使用に伴って数年間に渡って経費処理することをいいます。

事業用の資産には建物、附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの「有形固定資産」、ソフトウェア等の「無形固定資産」があります。これらの資産は、通常数年間にわたって事業に貢献します。また、その資産の価値も時の経過や使用につれて減っていくものとされます。

したがって取得した事業年度で一括で経費計上するのは実態にそぐわないため、その使用期間に渡って「減価償却費」として一定割合ずつ経費に計上していきます。

なお、減価償却費は月割りで計算します。例えば個人事業主が12月に事業用に新車(耐用年数6年)を取得したとしても、自動車購入価格の72分の1しか経費には計上できないということになります。

減価償却費の個人と法人の違い

強制償却か任意償却か

まず、法人と個人は減価償却の処理が「強制適用」なのか「任意適用」なのかという点が異なります。

個人事業主は、減価償却が強制適用されます。減価償却の対象となる資産を保有している場合は必ず減価償却しなければなりません。

一方法人は、減価償却は任意適用です。減価償却対象となる資産を保有していても「全く償却しない」「一部のみ償却する」などと自由に選択することができます。

ただし、任意償却といってもその事業年度に損金算入できる上限額は定められています。したがって「去年償却しなかったから今年は2年分償却する」と2年分の減価償却費を計上しても、法人税の計算上、損金に算入できるのは1年分のみとなります。

原則となる償却方法

減価償却には様々な償却方法がありますが、原則となる償却方法が定められています。その原則の償却方法が、個人と法人では以下のように異なります。

  • 個人事業主…定額法が原則
  • 法人…定率法が原則

原則となる償却方法は上記の通りですが、税務署に届け出ることによって償却方法を変更することができます。なお、上記に関わらず「建物」「付属設備」「構築物」「ソフトウェア」は個人も法人も定額法によって償却しなければなりません。

定額法と定率法の特徴を簡単に解説すると、定額法は毎期定額の減価償却費が計上され、定率法は取得年度から段々と減価償却費が減っていきます。早めに大きく経費計上したい方は定率法の方が有利となりますので、個人事業主の方は償却方法変更の申請書の提出を検討しても良いでしょう。

減価償却の注意点

個人事業主は家事按分に注意

減価償却資産を取得した場合、個人事業主は家事按分に注意する必要があります。家事按分とは、プライベート用と仕事用の両方に使用する資産を取得した場合、仕事用の使用割合を算出して資産計上額を按分することをいいます。

例えば自宅を事務所として使用していたり、自家用車を仕事用にも使用するケースなどがよくあるケースです。家事按分割合の算出方法は様々ありますが、一般的に以下のように按分するケースが多いでしょう。

  • 自宅兼事務所…仕事として使用している面積の割合
  • 自家用車…仕事として使用した日数や走行距離等

家事按分割合によって減価償却費の計上額も変わるため、税務調査の際にチェックされやすいポイントです。家事按分の算出根拠を明確にしておく必要があるでしょう。

法人の「任意償却」の落とし穴

法人の減価償却は任意であると説明しましたが、これは法人税法上の考え方です。会計上のルールである「企業会計原則」では任意償却を認めていません。企業会計原則は法律ではないので罰則はありませんが、会計上のルールを守っていない決算書は金融機関からの評価が下がります。

「利益を出すために減価償却費を少なく計上しよう」という操作をしても、金融機関が見れば利益操作をしていることは一目でバレます。利益操作のために減価償却を利用するのはあまり効果は無いと考えてください。

もう1点任意償却の落とし穴があります。法人税の当初申告時に減価償却費を経費計上していなかった場合、後から損金算入することは認められません。

例えば当初申告時は「利益を出したいから減価償却費を計上しない」という選択をしたが、数ヶ月後に「支払った税金を取り戻したいから、やっぱり減価償却費を計上して更正の請求をする」というようなことはできないということです。これは法人税法で「損金経理要件」が規定されているためです。

まとめ

減価償却の個人事業主と法人の違いについて解説しました。個人と法人で償却方法の原則が異なる点はぜひ覚えておきましょう。特に個人事業主の方は、節税のために年末付近に資産を購入してもほとんど経費に計上できない点は抑えておくべきです。

また、法人は任意償却なので都合よく減価償却を活用できそうに思えますが、実際にはデメリットもあることを頭に入れておきましょう。