個人と法人の違い④ 退職金・小規模企業共済

個人事業主と法人で大きく異なるポイントとして「退職金制度」が挙げられます。個人と法人の違い 第4回では個人と法人における退職金制度の違いについて解説します。

個人と法人の退職金制度の違い

退職金を経費にできるかどうか

個人事業主には退職金という概念がありません。したがって個人事業主本人への退職金はもちろん、家族従業員に対する退職金も経費として計上することはできません。

一方、法人では代表者や役員に対する退職金を経費として計上することが認められています。これは家族従業員に対して退職金を支払った場合も同様です。退職金支払い時には高額の経費を一括計上できるため、非常に高い法人税の節税効果を得られます。

法人から支払われた退職金は所得税上「退職所得」となります。次で詳しく説明しますが、退職所得は税金面でかなり優遇されています。要するに法人税・所得税両面でメリットがあるということです。

この退職金に関する個人と法人の違いは、法人成りを検討する大きな要因となるでしょう。

退職金は節税面でどれくらい有利なのか

退職金が節税に有効であると言われてもイメージしづらいと思います。そこで、退職金の計算方法と、それに係る税金の計算方法を具体例を挙げて解説します。

①   退職所得の計算

退職金は所得税上「退職所得」に該当することは先ほど説明した通りです。退職所得は以下のように計算します。

(退職金の額-退職所得控除額※)×1/2=退職所得

※退職所得控除は以下のように計算します。

勤続年数20年以下の場合…40万円×勤続年数
勤続年数20年超の場合…800万円+70万円×(勤続年数-20年)

②   退職金の計算方法

法人の役員に対して支給する退職金は好き勝手に決めていいわけではなく、ある程度ルールに則って金額を決めることとなります。代表的な計算式として「功績倍率法」があります。

功績倍率法の計算式

退職時の役員報酬(月額)×勤続年数×功績倍率

役員退職金をできるだけ多く貰いたいのであれば、退職時の役員報酬をできるだけ高額にしておく必要があります。また、功績倍率は一般的に「同業種・同規模」の会社の支給実績を元に算出します。創業者である代表取締役の場合は功績倍率3倍前後とするのが一般的とされます。

例えば退職時の役員報酬月額が80万円、勤続年数30年、功績倍率3倍の創業者に対する役員退職金は以下の額になります。

80万円×30年×3倍=7,200万円

注意が必要なのは、退職金を多く貰うために退職時の役員報酬を不相当に高く設定したり、相場や貢献度と比較して不相当に高い功績倍率を設定すると、税務調査で否認される恐れがある点です。役員退職金は高額な経費となるため、税務署のマークもかなり厳しい点は頭に入れておきましょう。

③   退職金にかかる税金の計算例

では、②で算出した退職金を元に退職所得を計算してみます。

退職所得の計算

(7,200万円-1,500万円)×1/2=2,850万円(退職所得)

このケースでは退職所得が2,850万円と計算されますが、これが多いのか少ないのかイメージしづらいと思います。詳しい計算は省きますが、7,200万円を退職金として貰った場合と給与として貰った場合で税額の比較をしてみましょう。

退職金として貰った場合の税額…8,604,000円
給与として貰った場合の税額…26,726,500円

給与として貰った場合と比べてなんと3倍以上税額に差が生じます。上記の計算は所得控除等全く考慮していないので正確な数字ではありませんが、節税効果の高さはイメージできたのではないでしょうか。

また、退職金のメリットには「社会保険料がかからない」という点も挙げられます。節税効果と合わせて、社会保険料の節約も無視できないメリットです。

法人における退職金の活用例

退職金が所得税上有利という点以外に、法人で活用される節税手法があります。それは「退職金の支給に合わせて保険金や共済等の出口を設定する」という方法です。

法人の節税手法として一般的な経営セーフティ共済や生命保険ですが、支払い時に経費になる代わりに、共済金・保険金の受け取り時にはその収入に対して課税されます。したがって共済や保険は「節税」ではなく単なる「課税の繰り延べ」であるとよく言われます。

共済金・保険金収入は高額となるため法人税の負担が心配されますが、そこで退職金が活用できます。退職金を支給する事業年度に合わせて共済・保険を解約することで、保険金の利益と退職金の経費が相殺されて税負担を大幅に軽減することができます。

保険金収入を退職金の原資とできるため、手元資金への負担軽減ができる点もメリットと言えるでしょう。

個人でも利用できる退職金制度

個人事業主やその専従者は退職金を経費に計上できません。しかし、退職金を全く節税に活用できないわけではありません。個人事業主にとって一般的な退職金制度として小規模企業共済が挙げられます。退職金を支払えない個人事業主にとってはぜひ活用したい制度です。

なお、小規模企業共済は個人事業主だけでなく、法人の役員も対象となります。ここからはそんな小規模企業共済について解説します。

小規模企業共済とは?

小規模企業共済は個人事業主やその専従者、法人の役員が加入できる共済制度です。中小機構という国が母体の団体であるため安心感があります。

掛金は毎月1,000円~70,000円の間で自由に設定できます。将来の退職金を月々の掛金支払によって積み立てるイメージです。

解約の事由や加入期間にもよりますが、積み立てた金額+αの金額を退職金として受け取ることができます。

小規模企業共済のメリット

小規模企業共済の最大のメリットは、掛金支払額の全額が所得税上の所得控除となる点です。最大84万円の所得控除が受けられるため節税効果は高いと言えるでしょう。なお、小規模企業共済控除はiDeCoと併用することも可能です。

また、掛金支払額の範囲内で低金利の借入が利用できる点も大きなメリットの一つです。

共済金の受け取りについて

共済金の受け取りのタイミングは様々ですが、主な受け取りのタイミングは以下の通りです。

  • 個人事業を廃業した場合
  • 法人が解散した場合
  • 役員を退任した場合
  • 死亡した場合
  • 65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ場合
  • 個人事業主が法人成りした場合
  • 任意解約

それぞれのケースごとに、受け取れる共済金の種類や金額が異なります。例えば、上記のうち任意解約をした場合は納付期間が20年未満だと元本割れします。詳細は以下で確認してください。

中小機構HP https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/about/proceed/index.html

まとめ

個人と法人の退職金について解説してきました。節税に大きな効果がある退職金ですが、個人事業主はその恩恵を受けることができません。退職金制度は法人成りを検討する大きな理由となるでしょう。

小規模企業共済は、本人だけでなく家族従業員も条件を満たせば加入できる非常にお得な制度です。こちらも節税・将来への備えなどの目的で加入を検討してみてはいかがでしょうか。