個人と法人の違い③ 給与・専従者

個人事業か法人かを検討する際に最も気になるのは「税金面でどちらが有利か」という点かと思います。個人と法人の違い 第3回では節税に大きく影響する「給与・賞与」について個人と法人の違いを解説します。

代表者の給与・賞与

まずは代表者の給与と賞与について、個人と法人の違いを解説していきます。

給与を経費にできるかどうか

そもそも個人事業主には「給与」という概念がありません。稼ぎの中から自分に生活費を払ったとしても、それを給与として経費に計上することはできません。

一方法人では、自分に対して支払う給与を「役員報酬」として経費に計上することができます。役員報酬の金額は通常年1回、決算日から3カ月以内に開催される株主総会で決定します。

株主総会と言うと大変な手続きが必要と感じるかもしれませんが、小規模企業の場合は株主=社長であるケースが多いためそこまで大げさな話ではありません。株主総会議事録に決定した役員報酬額を記載し、押印したものを会社で保管しておけばOKです。

自由度

個人事業主は生活費を経費にできない代わりに、自由度が非常に高いのが利点です。自分が稼いだお金の中から、いつでも好きな金額を生活費やプライベートな買い物に使うことができます。この点において制限は全くありません。

一方法人は役員報酬やプライベートな買い物について非常に制限が多いのが特徴です。決算後に決定した役員報酬は、極端に業績が悪化しない限り、次回決算が終了するまで改定できません。「先月は儲かったからたくさん給料をもらおう」といった行動はNGです。

また、会社の現預金を自分のプライベートな支出に使うのも基本的にはNGです。会社のお金を社長が使うと、会社から社長に対する貸付であるとして「役員貸付金」という科目で貸借対照表に計上されます。役員貸付金は金融機関が嫌う科目なので、いざ融資を受けようというときに障害となる可能性があります。

さらに、税務調査の際に「返済の意思がないから貸付金ではなく賞与である」と認定されてしまうリスクがあります。役員へのボーナスは損金に計上できないうえ、源泉所得税も課税されてしまうので大きな痛手となります。

賞与を経費にできるかどうか

給与と同じく、個人事業主には賞与という概念もありません。したがって当然ながら賞与を経費計上することはできません。

一方法人ですが、先ほど「役員へのボーナスは損金にできない」と解説しましたが、実は役員へのボーナスを損金計上する方法があります。その方法は「事前確定届出給与に関する届出書」を事前に税務署に提出し、その届出の内容通りに賞与を支給する方法です。

事前確定届出給与の提出期限は以下の通りです。

次の1~3のうち最も早い日

  1. 事前確定届出給与を定めた株主総会等の決議から1カ月を経過する日
  2. その役員が職務の遂行を開始する日から1カ月を経過する日
  3. その事業年度開始の日から4カ月を経過する日

なお、設立事業年度に事前確定届出給与を支給しようとする場合の提出期限は「設立の日以降2カ月を経過する日」となります。

事前確定届出給与を活用すれば役員に対する賞与を損金計上することができるため、賞与についても法人の方が節税面では有利と言えるでしょう。

家族従業員への給与・賞与

配偶者や親、子供など、同一生計の親族に対する給与・賞与について、個人と法人の違いを解説していきます。

給与を経費にできるかどうか

まず個人ですが、同一生計の親族に対して給与を支払いたい場合は「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に届け出る必要があります。提出期限は専従者給与を経費に計上しようとする年の3月15日までですが、その年の1月16日以後に開業した人や、新たに専従者がいることとなった場合にはその日から2カ月以内となります。

そのうえで以下の条件を満たす必要があります。

  • 生計同一の配偶者・その年の12月31日時点で15歳以上の親族であること
  • その年を通じて6ヶ月を超える期間事業に従事していること
  • 給与額が届出書に記載した金額の範囲内であり、かつ妥当な金額であること

上記の条件のうち「妥当な金額」の判断が難しいと思いますが、基本的には一般的な相場を逸脱していなければ問題ありません。これらの条件を満たしていれば、問題なく家族従業員に対する給与を経費計上することができます。

なお、青色事業者だけでなく白色申告にも「事業専従者控除」があります。事業専従者控除は配偶者なら86万円、その他の親族なら50万円を上限に控除が認められます。

一方法人ですが、家族従業員に対する給与の支払いには特に制限はなく、届出の必要もありません。ただし給与額は本人の業務内容に照らして妥当な金額であることが求められる点は個人と同様です。

賞与を経費にできるかどうか

まず個人ですが、専従者に対する賞与の支払いは「専従者給与」として経費に計上することができます。ただし、専従者給与に関する届出書に記載した賞与額の範囲内であることが条件です。

法人においても家族従業員に対する賞与は経費に計上することができます。ただし、家族を役員にしている場合は先述の「事前確定届出給与」を利用しなければ賞与を経費に計上することはできません。

賞与についても給与と同様、金額の妥当性が求められる点は個人・法人に共通しています。

配偶者控除・扶養控除との併用

家族従業員に対する給与・賞与は個人でも法人でも経費にできる点で大きな差はありませんが、他の部分で差があります。

個人における専従者給与の注意点は、配偶者控除や扶養控除との併用ができない点です。例えば20歳の子供に対して年間50万円の給与を支払ったとしましょう。20歳の子供の扶養控除は63万円です。したがってこのケースでは専従者給与を支給するよりも、大人しく扶養控除を利用した方が得ということになります。

一方法人では、家族従業員に対する給与と、その親族についての配偶者控除、扶養控除を併用することができます。例えば子供に対する給与を103万円以下に抑えれば、給与103万円を経費に計上したうえで扶養控除も利用することができます。

この点では個人より法人の方がお得であると言えるでしょう。

まとめ

個人と法人の給与面における違いをまとめると以下のようになります。

【代表者に対する給与・賞与】
個人…経費計上はできないが、自由度が高い
法人…経費計上ができるが、制約が多い

【家族従業員に対する給与・賞与】
個人…届出をすることで経費計上が可能。控除との併用不可
法人…特に制限なく経費計上が可能。控除との併用可

節税面で言えば法人に軍配が上がりますが、自由度が高い個人事業主の方が合っている方もいるでしょう。それぞれのメリットデメリットを考慮して個人事業主と法人どちらが向いているか検討してください。