融資で見られるポイント⑧ CRDスコアリングモデル
経営者にとって、金融機関や信用保証協会にどのような評価をされているのかは非常に気になる点だと思います。実はその評価を知る方法があります。
融資で見られるポイントの第8回では金融機関の評価を知ることができる「CRDスコアリング」について解説します。
CRDとは
CRD(クレジット・リスク・データベース)とは、全国の金融機関や保証協会が会員として構成されている非営利団体です。CRDには膨大な中小企業の決算データが蓄積されており、金融機関や信用保証協会の審査に活用されています。
CRDスコアリングモデルとは
CRDスコアリングモデルとは、中小企業の信用力を数値化したものです。膨大な中小企業の決算書データを分析し、中小企業の信用力をスコア化して評価します。
スコア別に格付け評価がなされ、その格付けは信用保証協会の保証料率の決定に利用されています。また、金融機関にとっては従来属人化されていた審査業務の効率化や、リスク管理の精度が高まるなどのメリットがあります。
CRDスコアによる格付けの概要は以下の表を参照してください。
スコア | 債務者区分 | 評価 |
1~6 | 正常先 | 1~3は文句なしの高評価 4~5はプロパー融資が通る可能性あり |
7 | 要注意先 | 保証協会融資が中心 |
8 | 要管理先 | 再生が困難 |
9 | 破綻懸念先 | 法的整理検討先 |
10 | 実質破綻先 | 法的整理対象 |
上記区分のうち、正常先に区分されるのが最終目標です。要注意先は財務的にリスクは抱えていますが、保証協会融資は問題なく通る場合が多いでしょう。ただし、改善が必要な部分は当然ありますので、何が問題で、どう改善しなければならないのか分析する必要があります。
なお、改善すべきは財務状態だけではない可能性もあります。事業改善計画の策定、予実管理をマメに金融機関に提出する等の対応で正常先にランクアップする可能性も残されています。
要管理先以下は新規融資を引き出すことが難しくなります。スコアが低い場合は最低限要注意先への格付けアップを目指すのが急務です。
CRDスコアはどうやって決まるのか
CRDでは財務指標を「定量評価」、事業環境を「定性評価」として、この2要素の合計で最終的な格付けを決定します。
定性評価は担当者の主観によるところが大きいため、格付けにどの程度寄与させるかは難しいところがあります。定量評価と定性評価のウェイトは金融機関によって異なります。
財務指標で重視されるポイント
財務指標で最も重視されるのは「安定性」を表す指標です。急成長を遂げている会社より、着実に安定成長を続けている会社の方が評価が高くなります。これは過度な急成長を遂げる会社には、様々なトラブルや資金繰りが生じるリスクが高く、倒産リスクが高いというデータに基づいています。
事業環境で重視されるポイント
事業環境で考慮される要素の一例として、以下のものがあります。
- 経営者の能力等
- 社内環境は良好か
- 企業の競争力や技術力、業界の競争の激しさ等
- 経営計画や売上予測を策定しているか
- 赤字の原因や経営計画との差異を把握しているか
例え直近の決算が赤字でも上記の定性評価が高ければスコアは良くなりますし、その逆も有り得ます。
CRD格付けをアップさせるためには?
ここからは具体的にCRDスコアリングを改善し、格付けをアップさせる方法について解説していきます。CRDスコアでは数多くの財務指標が採点の対象となりますが、ここではその中でも重要性が高いものについて解説します。
定性評価部分はすぐに着手できる
先ほど触れた財務指標=定量評価、事業環境=定性評価のうち、定性評価に関する部分はすぐに改善に着手できる部分が多いでしょう。例えば以下のような改善策が考えられます。
- 経営理念や経営方針を明確に打ち出し、従業員に徹底させる
- 従業員の接客態度や電話対応を改善させる
- 金融機関に対してマメに事業計画、予実管理表などを提出する
- 経営改善計画や中期経営計画を策定する
金融機関は経営者の能力や人柄も重視しますが、その辺りは一朝一夕で改善するのは難しいでしょう。例えば「営業力や交渉力は抜群だが、細かい数字を把握できていない」という点で評価を下げている社長は、財務の専門家に経営計画や予実管理を任せることで評価アップを果たせる可能性があります。
現預金残高を多めに残す
先ほど「安定性が最も重視される」と言いましたが、現預金残高は安定性を測るうえで一番分かりやすい指標です。当然スコアリングモデルにも影響を与えます。
どれくらいの現預金残高を維持すべきかは様々な考え方がありますが、月商の1.5か月分~2か月分の現預金残高を維持することを目標としましょう。
現預金残高の管理には資金繰り表が有効です。資金繰り表を活用し、半年後や1年後の現預金残高が月商の2か月分になるように計画を立てましょう。短期的には経費の圧縮や資産の売却、長期的には収益構造の改善など、現預金残高の安定化に伴って様々な改善策や課題が見えてくると思います。
場合によっては資金調達を検討しても良いですが、借り入れが増えるとその他の指標が悪化するため一長一短ではあります。
資産のスリム化
資産が少ない方が財務格付けのうえでは有利に働きます。資産が少なくなると自己資本比率や総資産利益率といった指標が改善することが理由の一つです。また、不要資産を売却することで、同時に負債の減少にも繋がります。
事業に不要な資産や不動産などの資産はもちろんのこと、回収スパン短縮による売掛金の削減、余計な在庫を抱えないことによる商品残高の削減などにも着手するとより効果的です。
自己資本を厚くする
自己資本の厚さも重要な要素の一つです。理想は20%超ですが、格付けの面では最低でも自己資本比率10%程度を確保する必要があります。なお、債務超過の場合はスコア面で大きな減点となります。
自己資本比率を厚くするためには、事業投資や設備投資、余分な経費の支出を控え、内部留保を厚くすることを優先することが大切です。
なお、債務超過に陥った場合でも、3年内に債務超過の解消が見込める場合はスコア上考慮されます。
売上高支払利息率
売上高支払利息率とは、売上高に対して支払利息の占める割合を表す指標です。売上高支払利息率は以下の式により計算します。
支払利息÷売上高
売上高支払利息率は卸売・小売業は「0.7%未満」、その他の業種では「1%未満」が目標値となります。この数値を超えると金融機関からは警戒されます。
例えば、売上高支払利息率が1%というのは「年商の半額の借入金を、利率2%で借りている」という状態です。これは一般的に借入上限額ギリギリのラインで、利率も比較的高い状態です。
指標を改善するためには、余分な資産を売却して借り入れの早期返済に充てる、金利交渉や借り換えを検討するなどの方法があります。
債務償還年数を短縮する
債務償還年数は「本業の儲けで借入金を完済するのにかかる年数」を表します。債務償還年数は以下の式で求めます。
(有利子負債-運転資金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)
この債務償還年数ですが、上記計算式で算出した数値が10年を超えるとやや借入過大の状態と見なされます。債務償還年数は7年以内に抑えることが理想です。
債務償還年数を改善するためには、上記計算式の右辺「経常利益+減価償却費-法人税等」の数値を上げることが必要です。この数字は営業努力によって利益をアップすることで改善できます。
なお、左辺の「有利子負債」を減らすことでも債務償還年数は改善しますが、無理して借入を早期返済することは資金繰り的に困難である場合が多いでしょう。やはり利益面を改善するのが現実的な改善策であると思われます。
CRD格付けを知る方法
CRDはそのデータベースを利用した「McSS経営診断システム」を公開しています。McSS経営診断システムを利用できるのは税理士や中小企業診断士といった士業に限られていますが、民間に開放されたことで金融機関の評価を知ることができるようになりました。
McSS経営診断システムを活用することで、約100万社の中小企業決算データとの比較により、格付け、財務面の強み・弱み、将来予測などのレポートを参照できます。気になる方は税理士等に問い合わせてみましょう。
まとめ
本記事ではCRDデータを元にした財務格付について解説しました。この記事で解説した内容はあくまで一般論であり、財務格付に用いられる指標等は業種等によってばらつきがある点は留意してください。自社の格付けが気になる方は、McSS経営診断システムを活用して現在地を把握しておきましょう。