個人と法人の違い⑤ 生命保険料

「生命保険に加入すれば節税になる」という趣旨のセールストークを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?しかしその仕組みや節税効果など、詳細までは分からないという方もいるかと思います。

また、個人事業主と法人では生命保険による節税手法や、満期保険金収入の取り扱いが大きく異なります。個人と法人の違い 第5回ではそんな生命保険について、個人と法人の両面から解説していきます。

生命保険の個人と法人の違い

生命保険による節税について、個人と法人それぞれの内容を大雑把に掴みましょう。

まずは個人ですが、個人事業主が支払った生命保険料は経費に計上することができません。生命保険料の支払額は「生命保険料控除」として所得控除による節税を図ります。

一方、法人で加入した生命保険は支払額の一部を経費とすることで節税を図ります。ここが個人と法人の大きな違いです。

保険金収入面でも個人と法人は取り扱いが異なります。解約返戻金や満期保険金を受け取った場合、個人事業主はその受け取り形式によって「一時所得」または「雑所得」として確定申告をする必要があります。収入額の計算上、今まで支払った保険料が経費として控除できるため、収入に対する税額は想像よりも軽く済むケースが多いでしょう。

一方法人が満期保険金等を受け取った場合、雑収入等の科目で収益計上することになります。保険料の支払い時に保険積立金分を控除することができますが、全損タイプの保険に加入していた場合は収入の全額が収益として利益計上されてしまいます。経費計上の割合が大きい保険に加入している方は、出口戦略をしっかり計画しておいた方が良いでしょう。

以下、生命保険について、個人と法人に分けてより詳しく解説していきます。

個人の生命保険による節税

個人が生命保険料を支払った場合には、生命保険料控除という所得控除を利用することができます。

生命保険料控除とは

生命保険料控除とは、個人で加入している生命保険料の支払額のうち、一定の金額を所得控除できる制度です。

生命保険料控除の対象となる保険は以下の3種類に分類されます。

  • 一般生命保険料
  • 介護医療保険料
  • 個人年金保険料

なお、生命保険料控除は平成24年1月1日以後に契約したものを「新制度」、それ以前に契約したものを「旧制度」として、それぞれ分けて控除額の計算を行います。

生命保険料控除の金額

生命保険料の支払額がそのまま控除額になるわけではなく、控除額には上限が設定されています。保険の種類別の上限額は以下の通りです。

【控除上限額】

種類新制度旧制度
一般生命保険料40,000円50,000円
介護医療保険料40,000円
個人年金保険料40,000円50,000円

生命保険料控除全体の控除額の上限は120,000円となります。

この上限額を抑えたうえで、控除額の計算方法を見ていきましょう。以下の表を参照してください。

新制度旧制度
年間の保険料支払額控除額年間の保険料支払額控除額
20,000円以下保険料支払額の全額25,000円~保険料支払額の全額
20,001円~40,000円保険料支払額×1/2+10,000円25,001円~50,000円保険料支払額×1/2+12,500円
40,001円~80,000円保険料支払額×1/4+20,000円50,001円~100,000円保険料支払額×1/4+25,000円
80,001円~40,000円100,001円~50,000円

上記の計算式は「一般生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」全てに共通して適用されます。それぞれ先に示した上限額の範囲内で控除することができます。

これも先に示した通り、生命保険料控除全体の上限は120,000円です。したがって新制度、旧制度の全てについて控除額を計算し、その合計額が120,000円を超えた場合には、生命保険料控除額は120,000円となる点に注意してください。

生命保険料控除の効果は薄い?

生命保険料控除の上限額120,000円という金額は、お世辞にも節税に効果的であるとは言えません。社会保険料控除やiDeCoであれば支払額が全額控除できますし、配偶者控除や扶養控除と比べても1/3以下の節税効果しかありません。

そもそも個人で「節税のために生命保険に加入する」という考え方はあまり無いと思いますが、節税のためではなく「必要な備えだから加入する」という視点を持った方が良いでしょう。

法人の生命保険による節税

続いて法人の生命保険料による節税について解説します。先述の通り法人では経費計上により節税を図ることになりますが、どの程度の効果があるのでしょうか?

生命保険料による節税効果は薄い

いきなり結論から入りますが、法人の生命保険による節税効果は薄いと言えます。以前は解約返戻金も高く、支払額の50%~全額を経費計上できる商品が「節税保険」として人気を博していました。「生命保険は節税に有効」という定説はこの時代のものです。

しかし、2019年の税制改正により解約返戻率が50%を超える保険商品の経費計上額が大幅に抑えられることとなりました。その結果、法人加入の生命保険は概ね以下のような状態となっています。

  • 解約返戻率が高い商品は経費計上できる額が少ない
  • 経費計上額が大きい商品は解約返戻率が低い

このような現状では、節税目的だけの生命保険に加入する意義は薄いでしょう。

節税以外の目的で加入を検討すべき

法人の生命保険による節税効果は薄いと言わざるを得ませんが、そもそも生命保険の趣旨は節税ではありません。

代表者の予期せぬ事故や病気に備える目的や、従業員の福利厚生のための保険であれば加入を検討する価値はあるでしょう。解約返戻金のない保険商品など、全額経費計上できる商品も存在します。節税とは視点を変えて生命保険の加入を検討してみましょう。

解約返戻金や満期保険金受け取り時の処理

個人事業主の場合

個人事業主の場合、満期保険金や解約返戻金の受け取り形式によって以下のように処理が異なります。

  • 一時金として受け取った場合…一時所得
  • 年金形式で受け取った場合…雑所得

一時所得、雑所得による税額計算の方法は以下の通りです。

【一時所得による保険金の税額計算】
(保険金収入の額-支払った保険料-特別控除額50万円)×1/2

【雑所得による保険金の税額計算】
その年の年金収入の額-その金額に対応する支払保険料

一括受け取りを選択し、一時所得による申告をした方が一般的に税負担は軽くなります。しかし保険金受取総額で見ると年金形式を選択した方がお得となるため、どちらを選択するかは今後の人生計画等を考慮して検討する必要があります。

法人の場合

法人の場合、満期保険金や解約返戻金収入は「雑収入」等の科目で収益として計上します。保険料支払い時に保険積立金を計上していた場合は、その保険に係る部分の保険積立金を収入から控除して収益計上します。

保険積立金とは、保険料支払時に損金計上できなかった金額部分を指します。要するに全損タイプの保険であれば保険積立金は計上されておらず、半損タイプの保険であれば保険料支払総額の半額分の保険積立金が貸借対照表に計上されているはずです。

損金計上の割合が大きければ大きいほど、保険金収入時の収益計上額が大きくなってしまいます。役員退職金と相殺したり、赤字計上が見込まれる期に解約するなどの計画性が重要となるでしょう。

まとめ

生命保険について個人・法人の両面から解説してきました。個人の場合は生命保険料控除、法人の場合は経費計上という点は抑えておきましょう。また、収入時の処理方法もそれぞれ頭に入れておいてください。

個人・法人に関わらず、生命保険への加入は「節税以外の目的」をもって検討すべきでしょう。生命保険料控除や経費計上額だけで見たら大きな節税効果は見込めないかもしれませんが、必要意識を持って生命保険に加入するのであれば有難い制度ではないでしょうか。