個人と法人の違い① 申告義務

今回からシリーズで、個人と法人の違いについて解説していきます。初回は、個人と法人の申告義務の違いについてです。

所得税と法人税の違いの一つとして「申告義務」が挙げられます。申告義務を勘違いしているとペナルティ等に繋がる恐れがありますので、所得税と法人税の違いをしっかり把握しておきましょう。

所得税・法人税の申告義務の相違点

所得税は個人に課せられる税金、法人税は法人に課せられる税金です。所得税は収入を得ている人全員に関係するため、法人税より身近な税金であると言えます。

身近である一方で「所得税の申告をした記憶がない」という方も多いと思います。それも当然の話で、ある一定の要件に該当しなければ所得税の確定申告をする必要がないからです。

所得税の確定申告義務がない方は、勤務先で行う年末調整でその年の正確な所得税額が計算されます。したがって自分で確定申告を行わなくても何ら問題は生じません。

一方、設立間もない会社を除いて「法人税の申告をした記憶がない」という企業は通常存在しません。法人はどのような場合においても必ず確定申告をする必要があるためです。

では所得税・法人税それぞれの申告義務について順に解説していきます。

所得税の申告義務

所得税は確定申告義務がある人とそうでない人に分かれます。収入のパターンごとに申告義務の有無を解説します。

(1) 給与収入がある方

原則、年末調整を行えば確定申告は不要です。ただし、次のいずれかに該当する人は確定申告を行う義務があります。

  1. 給与収入が2,000万円を超える場合
  2. 年末調整をした給与収入があり、かつ、それ以外の所得金額の合計額が20万円を超える場合(退職所得を除く)
  3. 2か所以上から給与収入がある場合で、年末調整しなかった給与の収入金額と、それ以外の所得金額の合計額が20万円を超える場合(退職所得を除く)
  4. 同族会社の役員やその親族などで、その同族会社からの給与以外に貸付金の利子、不動産賃貸料、機械等の使用料などの収入を得ている場合
  5. 災害減免法により所得税等の源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた場合
  6. 在日の外国公館の職員や家事使用人の方などで、所得税等を源泉徴収されないこととなっている場合

会社員として給与収入を受け取りつつ副業を行っている方は、上記の2番に当たります。副業の所得(収入から必要経費を控除した残額)が20万円を超える場合は確定申告が必要となります。

(2) 公的年金等の収入のみの方

公的年金等の収入のみを受けている方のうち、以下の計算をして残額がある場合には確定申告を行う義務があります。

公的年金等の収入額-公的年金等の控除額-所得控除

ただし、収入が公的年金等のみの方で、公的年金等の収入の合計額が400万円以下の方は確定申告の必要はありません。

(3) 退職所得がある方

退職金収入がある方のうち、その退職金の支払者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合、一般的には確定申告は不要となります。

ただし、外国法人からの退職金収入がある場合には確定申告義務があります。

なお、退職所得以外にも収入がある方は(1)又は(4)のいずれかに該当する場合には確定申告が必要となります。

(4) (1)~(3) 以外の方

(1)~(3) で挙げたケース以外の収入がある方は、次の計算において残額がある場合、確定申告義務があります。

(各所得の合計額-所得控除)×所得税率-配当控除

所得税には全10種類の所得がありますが、それらの所得を合算して税額の計算をした結果、税額が生じる方は確定申告義務があるということです。

ただし、「住宅ローン控除を適用した結果、納税額が生じなかった」という方は確定申告をする必要があります。住宅ローン控除は確定申告をすることで初めて適用が認められるためです。

住宅ローン控除と同様に「以下の税制を利用したと想定した場合、納税額が生じなかった」という方も確定申告したうえで下記の税制を適用する必要があります。

  • マイホームを売却し、別のマイホームに買い換えた場合の3,000万円特別控除
  • 株式の譲渡益を元手に起業、又は再投資を行った場合の非課税制度

また、公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、それ以外の所得金額が20万円以下である方は確定申告義務はありません。

(5) 確定申告義務は無いが、確定申告をした方がいい人

ここまで確定申告義務がある人について解説してきました。しかしそれとは別に「確定申告義務がなくても確定申告をした方がいい人」も存在します。一例を挙げると次に該当する方です。

  • 医療費の支払額が年間100,000円を超える人
  • セルフメディケーション税制対象の医薬品や予防接種、健康診断等の支払額が年間12,000円を超える人
  • ふるさと納税を支払ったが、ワンストップ特例を利用していない人
  • 年の途中で退職し、年末調整を受けていない人
  • 自然災害等で被害を受けた人
  • 会社員で「特定支出控除」に該当する支出がある人
  • 年末調整時に控除の適用漏れがあった人
  • 公的年金の源泉徴収税額の還付を受けたい人

上記に該当する方は確定申告をすることで還付金を受け取ることができる可能性があります。気になる方はどれくらいの追加還付を受けることができるのか試算してみましょう。

法人税の申告義務

全ての法人は法人税の申告義務があります。法人税の申告は「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」に行わなければなりません。

また、法人税の申告の際には決算書を添付する義務があります。決算は会社法において全ての企業が行うことが義務付けられています。法人税の申告書は決算書を元に作成されるため、決算と法人税申告はセットであると考えて良いでしょう。

まとめ

全ての企業が一律に申告義務を負う法人税と比べて、所得税の申告義務の判定はやや複雑です。申告義務があるのに申告を忘れると加算税や延滞税等のペナルティが生じる可能性があるため、しっかり確認しておきましょう。