個人と法人の違い② 配当金
個人と法人の違い 第2回は、配当金の取り扱いの違いについてです。
株取引をしている方や法人への出資をしている方、又はグループ企業の経営者にとっては身近な配当金収入。個人で配当金を受け取る場合と、法人で配当金を受け取る場合とでは取り扱いが大きく変わるため注意が必要です。
受取配当金に該当するもの
配当金として取り扱われるもののうち代表的なものとして以下のものが挙げられます。
- 株式会社の剰余金の配当金
- 信用金庫等の出資配当金
- みなし配当
- 投資信託の収益分配金
みなし配当とは実際には配当ではないものの、経済的実態が配当金であるとみなして課税される制度です。自己株式の買取りや組織再編、解散などの際に生じる可能性があります。
なお、協同組合等の事業分量配当金や保険会社の契約者配当金など「配当金」という文言が含まれていても取り扱いが異なるものもあります。これらは所得税では配当所得には該当せず、法人税法においても益金不算入とはなりません。
配当金課税について検討する際は、その収入が税法上配当金として取り扱われるのかどうかをまず最初に確認しましょう。
所得税の配当金課税
最初に所得税の配当金課税のポイントを4点挙げます。
- 受取配当金の源泉徴収
- 配当所得の3つの制度
- 配当所得の計算方法
- 配当の原資による取り扱い
上記について順に解説していきます。
受取配当金の源泉徴収
配当金が支払われる際には、一定の税率により所得税等が源泉徴収されます。源泉徴収税率は上場株式の配当金の場合は「15.315%」、 非上場株式の配当金の場合は「20.42%」となります。
配当所得の3つの制度
所得税の配当金課税には以下の3つの制度があります。
- 申告不要制度
- 総合課税
- 申告分離課税
上場株式の配当金収入がある個人は、上記の3つの制度のうち最も有利な制度を選択して適用することができます。一方、非上場株式の配当金については選択の余地がなく、上記のうち「総合課税」により確定申告する必要があります。
それぞれの概要とメリット・デメリットを簡単に表にまとめました。上場株式の配当金収入については、どの制度を選択するのが最もお得か検討してみましょう。
申告不要制度 | 総合課税 | 申告分離課税 | |
概要 | 配当金受領の際の源泉徴収のみで完結させる制度 | 配当所得以外の所得と合算で所得税の計算を行う制度 | 配当所得単体で所得税の計算を行う制度 |
メリット | 確定申告の手間を省くことができる | ・配当控除を利用できる ・合計所得が少ない場合、源泉所得税の還付が受けられる可能性がある | ・上場株式等の譲渡損失との損益通算ができる |
デメリット | 確定申告すれば還付を受けられる場合でも、還付を受けることができない | ・合計所得が大きい場合納税額が増える ・合計所得が増えるため、所得税の各種所得制限だけでなく、児童手当や医療費助成など各種給付にも影響をしてくる | ・合計所得が増えるため、所得税の各種所得制限だけでなく、児童手当や医療費助成など各種給付にも影響をしてくる |
適用可否 | 上場株式、非上場株式(少額配当の場合のみ) | 上場株式・非上場株式 | 上場株式 |
表のうち、非上場株式の少額配当の申告不要制度について補足します。少額配当とは次の計算式で計算した金額が10万円以下であるものを指します。
10万円×配当計算期間の月数÷12
例として、配当金支払いが年1回であれば10万円以下、年2回の支払いであればそれぞれ5万円以下であれば申告不要を選択できます。
配当所得の計算方法
配当所得は次の計算式で計算されます。
配当金収入−株式等の取得のための負債利子
株式取得の際に借り入れをした場合には、その借入金に係る利子を収入から差し引いて配当所得を計算します。
配当の原資による取り扱い
配当金は、その原資が「利益剰余金」であるか「資本剰余金」であるかによって取扱いが異なります。
利益剰余金が原資となる配当は配当所得となりますが、資本剰余金が原資となる配当は「みなし譲渡損益」として譲渡所得に分類されることとなります。
自身の配当金がどちらに該当するか気になる方は、配当金支払企業から送付される配当金に関する案内を確認してみましょう。
配当控除とは?
配当控除とは、総合課税によって確定申告をした場合に適用される税額控除です。配当控除は総合課税の大きなメリットですが、総所得金額が大きい場合、申告不要制度や申告分離課税を選択した方がお得になる可能性もあります。
配当控除の計算式は次の通りです。
- 課税所得が1,000万円以下の場合
配当所得×10%=配当控除 - 課税所得が1,000万円を超えた場合
①配当所得の額-(課税所得-1,000万円)
②配当所得の額-①(マイナスとなる場合はゼロとする)
③①×10%+②×5%=配当控除
法人税の配当金課税
続いて法人税の配当金課税について解説します。法人は配当金の受け取りに係る課税関係に加え、配当金の支払いについての課税関係も把握しておく必要があります。
原則益金にならない
配当金は法人税等が課税された後の純利益から配当されるものです。そこでさらに受取配当金に対して課税すると法人税の二重課税となってしまいます。したがって受取配当金は原則「益金不算入」として法人税が課税されないこととなっています。
ただし、配当金の種類等によっては益金不算入とはならないものもあります。その点については後述します。
益金不算入の計算方法
益金不算入として課税されないと説明しましたが、配当金の種類によって益金不算入の金額は変動します。益金不算入の額については持株比率別にまとめた次の表を参照してください。
完全子法人株式等に係る配当(持株比率100%) | 配当等の額×100% |
関連法人株式等に係る配当(持株比率1/3超) | (配当等の額 - 負債利子の額のうちその株式等に係る部分の金額)×100% |
その他の株式等に係る配当(持株比率5%超1/3以下) | 配当等の額×50% |
非支配目的株式等に係る配当(持株比率5%以下) | 配当等の額×20% |
上記の表の通り、関連法人株式等から受け取る配当については「負債利子」を控除する必要があります。
益金不算入とはならない配当金
次に挙げる配当金は、益金不算入とはならず全額益金に算入され、法人税が課税されます。
- 外国法人からの配当(外国子会社を除く)
- 協同組合等の事業分量分配金
- 保険会社等の契約者配当金
- 証券投資信託・公社債投資信託・不動産投資信託等の収益の分配(特定株式投資信託を除く)
所得税と同様、法人税においても配当金の種類によって取り扱いが異なります。配当金収入がある方はその配当金の税制上の取り扱いを事前に確認しておきましょう。
全額益金に算入される短期所有株式とは?
受取配当金のうち「短期所有株式」から受けた配当金収入は益金に算入され、法人税が課税されます。短期所有株式とは配当基準日以前1ヶ月以内に取得し、その基準日後2ヶ月以内に譲渡した株式を言います。
法人が配当金を支払う場合の取り扱い
配当金の支払いは会計上、資本取引に該当するため経費には計上されません。
税務上の取り扱いとして重要なのは源泉徴収です。上場企業が支払う場合は15.315%、 非上場株式の場合は20.42%を源泉徴収し、税務署に納める必要があります。
ただし、2022年の改正によって子会社から完全支配関係にある親会社に支払う配当金等は源泉徴収が不要となりました。
まとめ
所得税と法人税では受取配当金の取り扱いが大きく異なります。損益通算を一例にあげると、所得税では申告分離課税を選択すれば上場株式等の譲渡損失と配当所得との損益通算が可能です。一方、法人税は企業活動により生じた利益や損失は全て一本化して所得の計算を行うため、そもそも何もせずとも自然に利益や損失が通算されます。
所得税と法人税は所得の計算方法からして異なりますので、違いを把握しておきましょう。