個人と法人の違い⑫ 税率(地方税編)

個人事業主と法人の税負担を比較する場合、所得税と法人税にばかり目が行きがちです。しかし、個人と法人は地方税にも違いがあります。

所得に連動する地方税は「住民税」と「事業税」に分類されます。個人と法人の違い 第12回は地方税の税率などに関する個人事業主と法人の違いを比較します。

なお、本記事で紹介する税率はすべて令和5年現在の東京23区の税率となっています。住民税・事業税の税率は地域によって異なるため、正確な税率はそれぞれの地域の都道府県税事務所等のホームページで確認してください。

個人と法人の住民税

地方税のうち、まずは住民税について確認していきましょう。

個人の住民税は、所得金額に課される「所得割」と、所得金額にかかわらず課税される「均等割」に分かれます。一方法人の住民税は、所得金額に課される「法人税割」と、こちらも「均等割」に分かれます。

 所得金額に課される所得金額に関わらず課される
個人住民税所得割均等割
法人住民税法人税割

個人住民税は、会社員の方は年末調整の際に会社が申告を代行してくれます。個人事業主の方は確定申告をすることで自動的に住民税の申告も合わせて行われます。

個人住民税の納付書は毎年6月頃にお住いの市区町村から届きます。会社員の方は納付書が会社に届き、給与から天引きされる形で納付します。

一方法人住民税は法人税の確定申告と同時に申告・納付を行います。

では、それぞれ個人と法人ではどのように違いがあるのか解説していきます。

所得割と法人税割の違い

個人住民税における所得割と、法人住民税における法人税割は、ともに所得に対して課されるという点で共通しています。ではその税率に違いはあるのでしょうか?以下がそれぞれの税率です。

所得割(個人住民税)…10%(都道府県分4%、市区町村分6%)
法人税割(法人住民税)…7%(都道府県分1%、市区町村分6%)

税率だけを見れば、個人よりも法人の方がお得となります。ただし、詳細は後述しますが、個人住民税は非課税枠が設けられているためこの限りではありません。

また、所得税割・法人税割ともに所得金額に対して課税されるため、マイナス所得で申告した場合には課税されません。

均等割の違い

続いては均等割です。均等割は所得金額にかかわらず一律に課税されるものです。

まず、個人の均等割は「都道府県1,500円」「市区町村3,500円」の合計5,000円です。想像よりも安いと感じた方も多いのではないでしょうか。

一方、法人の均等割は資本金と従業員数によって以下の通り変動します。

資本金等の額従業員数均等割額
1,000万円以下50人以下70,000円
50人超140,000円
1,000万円超~1億円以下50人以下180,000円
50人超200,000円
1億円超~10億円以下50人以下290,000円
50人超530,000円
10億円超~50億円以下50人以下950,000円
50人超2,290,000円
50億円超~50人以下1,210,000円
50人超3,800,000円

資本金1,000万円以下で従業員が50人以下の法人であれば、均等割は7万円となります。個人の均等割額と比較すると、個人が4,000円なのに対し、法人は最低でも70,000円かかるため割高となります。

個人住民税には非課税枠が設けられている一方、法人には非課税枠はありません。法人は赤字決算をした場合でも最低70,000円の均等割が生じるということを頭に入れておきましょう。

住民税の非課税枠の違い

繰り返しになりますが、個人住民税には非課税枠が設けられています。個人住民税の均等割・所得割それぞれの非課税ラインは以下の表の通りです。

 同一生計の配偶者または扶養親族がいる人単身者
均等割の非課税所得ライン35万円×(本人・配偶者・扶養親族の合計人数)+31万円45万円以下
所得割の非課税所得ライン35万円×(本人・配偶者・扶養親族の合計人数)+42万円45万円以下

単身者の場合、課税所得が45万円以下であれば均等割・所得割ともに非課税となります。これを収入に換算すると「所得45万円+給与所得控除55万円=100万円」が非課税ラインです。要するに年収100万円以下の方は個人住民税がかからないということになります。

法人住民税と比較した場合、非課税枠の存在は個人の大きなメリットと言えるでしょう。

個人と法人の事業税

続いては事業税の個人と法人の違いについて解説します。まず、事業税は所得に対して課税されます。これは個人も法人も共通です。

個人事業税は、法定業種として定められた70の業種にのみ課税されます。また、業種によって税率も異なります。この法定業種については後述します。

一方法人事業税は業種にかかわらず、全ての法人に課税されます。この点がまず個人事業税と法人事業税の異なる点です。

個人事業税の納付書は都道府県税事務所から送付され、納付は2回に分けて行います。納付期限は8月末、11月末となります。

一方法人事業税は法人税の確定申告と同時に申告・納付が行われます。

事業税率の違い

個人事業税の税率は業種によって異なります。業種別の税率は以下の表で確認してください。

区分税率業種
第一区分5%物品販売業、運送取扱業、料理店業、遊覧所業、保険業、船舶定係場業、飲食店業、商品取引業、金銭貸付業、倉庫業、周旋業、不動産売買業、物品貸付業、駐車場業、代理業、広告業、不動産貸付業、請負業、仲立業、興信所業、製造業、印刷業、問屋業、案内業、電気供給業、出版業、両替業、冠婚葬祭業、土石採取業、写真業、公衆浴場業(むし風呂等)、電気通信事業 、席貸業、演劇興行業、運送業、旅館業、遊技場業
第二区分4%畜産業、水産業、薪炭製造業
第三区分5%医業、公証人業、設計監督者業、公衆浴場業(銭湯)、歯科医業、弁理士業、不動産鑑定業、歯科衛生士業、薬剤師業、税理士業、デザイン業、歯科技工士業、獣医業、公認会計士業、諸芸師匠業、測量士業、弁護士業、計理士業、理容業、土地家屋調査士業、司法書士業、社会保険労務士業、美容業、海事代理士業、行政書士業、コンサルタント業、クリーニング業、印刷製版業
3%あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復・その他の医業に類する事業、装蹄師業

上記の表に記載されていない業種には個人事業税は課されません。例えばフリーランスのエンジニアやWebライターは上記表に記載がないため、個人事業税課税の対象外です。

業種は確定申告書に記載した業種を元に判断されます。業種を適当に記載して払う必要のない個人事業税を支払うことのないよう注意が必要です。

続いて法人事業税の税率です。先述の通り、法人事業税は業種に関わらず課税されます。また、所得金額によって税率が変動します。

ここでは「軽減税率適用法人」の事業税率について解説します。軽減税率は「外形標準課税法人ではない(資本金1億円以下)」または「資本金1,000万円未満かつ事業拠点がある都道府県が3未満」の法人に適用されます。

所得金額標準税率超過税率
400万円以下3.5%3.75%
400万円超800万円以下5.3%5.665%
800万円超7.0%7.48%

上記表の超過税率は「資本金1億円超」または「所得2,500万円超または収入が2億円超」の法人に適用されます。いずれにも該当しない法人には標準税率が適用されます。

個人事業税と法人事業税の税率を比較すると、個人は業種によって、法人は所得金額によって税率が変動するため一概にどちらが得かは断言できません。ただし、次で解説する非課税枠があるため、その点も考慮する必要があります。

事業税の非課税枠の違い

個人事業税は290万円の控除枠が設けられています。したがって所得金額が290万円以下の方は個人事業税が非課税ということになります。

一方、法人には個人事業税のような控除はありません。つまり法人は所得金額がプラスであれば、その時点で事業税がかかります。

290万円の控除は非常に大きく、住民税と同様に事業税も個人の方がお得ということが言えるでしょう。

なお、個人事業税は青色申告特別控除が使えない点に注意しましょう。個人事業税の計算の元となるのは所得税の課税所得ですが、その課税所得に青色申告特別控除額を足した金額が個人事業税の課税所得となります。

まとめ

本記事では個人と法人の地方税について比較しました。税率にはそこまで大きな差が無い一方、個人住民税の非課税枠、個人事業税の290万円控除の存在が大きく、個人の方が全体的にお得と言えるでしょう。また、均等割の金額についても個人の方が法人よりかなり低く抑えられています。

法人成りを検討する際には、地方税も検討の材料に入れて考慮することをおすすめします。