免税事業者が身構えるインボイス制度

インボイス制度の開始までとうとう1年を切りました。いまさら感はありますが、インボイス制度の概要についてお話ししたいと思います。

インボイスって何?

インボイスっていうのは、適格請求書とよばれる消費税の要件を満たした請求書などの書類のことです。

はじめて聞く人は「その書類が何?」って思いますよね。
今までは請求書や領収書などを発行する相手が消費税を納めている事業者かどうかなんて

気にすることはなかったですよね。
だって、様式が満たされていれば消費税の計算で問題になることはなかったですから。

でも、インボイス制度がはじまる来年の10月1日からは、一定の要件を満たした書類で無ければ、消費税の計算で使えなくなるんです。

免税事業者はインボイス制度に登録すると消費税を納めないといけない!?

だったら「要件を満たせば良いよね。」「難しくないんでしょ?」と思うかもしれませんが、その要件の一つに、書類を発行する事業者が「消費税を納める事業者」になることが入っています。

つまり「取引先が消費税で困らない様な請求書を発行したいんだったら、消費税を納めないといけない」ということになるんです。

いままで消費税を納めていなかったら、消費税分10%はそのまま利益になってました。

でも、これからは「自分が消費税を納めていないと取引先が損をするかもしれない!?」ということになります。

取引をやめられると困るから、消費税納めるしかない…
消費税10%分の利益が無くなるから苦しい…
悩ましいですね。

今までは2年前(2事業年度前)の年間課税売上高が1,000万以下の事業者は、消費税を納めていない方がほとんどだったと思います。
が、来年の10月1日からは状況が変わります。

だからインボイスは、消費税を納めている人も納めていない人も、どちらにも関わってくるんです。

取引先に迷惑をかけないために「消費税を納める事業者」になることを選ぶんだったら、

インボイスの登録手続きを行うことで「消費税を納める事業者」になることができます。

登録をすると番号が割り振られ、その番号を請求書や領収書に記載することで、インボイスに登録してるっていうことがわかるようになります。
これで取引先も安心して請求書を受け取ることができるようになります。

消費税を納める側の立場から影響のあること

取引先にフリーランスの方など、消費税を納めていない方(=免税事業者)がいる場合には、

免税事業者へ支払う消費税は、計算上差し引けなくなります。

ここで、消費税の計算方法のおさらいです。

めちゃくちゃ簡単にいうと、消費税の原則的な計算は、
売上などの収入に係る消費税 ▲ 仕入や経費の支払に係る消費税 = 納める消費税
です。

つまり、上記の計算式の「仕入や経費で支払った消費税」が免税事業者へ支払った消費税については、ゼロにされるということです。

そうなると支払う側は消費税分の損をしてしまうので、免税事業者の方にインボイスへ登録していただくよう、お願いする必要がでてきます。

ここで注意したいのが、インボイスの登録要請自体は、独占禁止法上問題になりませんが、

登録をしない場合に取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切るなど

と一方的に通告することは、独占禁止法上問題となる恐れがあります。

インボイス登録をお願いする立場の場合、強引に進めることはリスクがありますので、ご注意いただければと思います。

ただし、自分の消費税の計算方法を、「簡易課税制度」を選択する・している場合には、差し引く消費税の影響は出てきません。

なぜなら、簡易課税制度の計算はざっくり言うと、
売上などの収入に係る消費税 ▲ 売上などの収入に係る消費税×業種ごとの割合 = 納める消費税
になるからです。
計算式を見ての通り、自分が支払った仕入や経費に係る消費税は計算に関係しません。

消費税を納めていない側の立場から影響のあること

消費税が差し引ける書類を発行するためには、インボイスへ登録をして、消費税を納める事業者になる必要があります。

だから消費税を納めたくないからという理由で、インボイスへ登録をしなかった場合、売上先が消費税分の損をしてしまうので、価格交渉や最悪の場合は取引の中止といったことが考えられます。

さっきも言ったように、登録をしない場合に取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切るなどと一方的に通告することは、独占禁止法上問題となる恐れがあります。

でも、インボイスのことにはふれずに、「合見積もりの結果、高かった」と言われたらそれまでですよね。

支払先が免税事業者でも、いきなりゼロになるわけではない

一方で急激な変化は影響が大きいこともあり、一定期間は免税事業者が発行する書類であっても、差し引ける消費税を一部認めるという形がとられます。

  1. 令和5年10月~令和8年9月 →免税事業者に対する消費税の80%が差し引ける
  2. 令和8年10月~令和11年9月 →免税事業者に対する消費税の50%が差し引ける
  3. 令和11年10月以降 →免税事業者に対する消費税は全額差し引けない

でも、大企業の経理は嫌がるでしょうね。いちいち免税事業者かどうか確認する手間が出るので。そう考えると、インボイスへ登録しないところは敬遠されるでしょう。

登録後にHPで公表される内容

なお、登録をした場合には、国税庁HP「公表サイト」において以下の事項が公表されます。

  • 適格請求書発行事業者の氏名又は名称
  • 登録番号
  • 登録年月日(登録取消年月日、登録執行年月日)
  • 法人は本店又は主たる事務所の所在地
  • 特定国外事業者以外の国外事業者については、国内における事務所等の所在地

以下の事項は「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」に必要事項を記載して提出することにより、次の事項を任意の公表事項とすることができます。

  • 個人事業者について、「住民票に併記されている外国人の通称」又は「住民票に併記されている旧氏(旧姓)」(これらを氏名として公表、あるいは、氏名と併記して公表)
  • 個人事業者の「主たる屋号」「主たる事務所の所在地」
  • 人格のない社団等の「本店又は主たる事務所の所在地」

お伝えしたインボイスの制度はほんの一部ですが、影響が大きい部分なので少しでもお役に立てたらうれしいです。
これ以外にも触れておきたいルールはあるので、次回以降お伝えできたらと思います。