個人と法人の違い⑦ 自宅家賃(賃貸)

多くの事業者は「地代家賃」としてオフィスや店舗の家賃を経費計上します。家賃は事業を行う上では固定費として欠かせない支出です。

そんな身近な経費である家賃ですが、オフィスや店舗だけでなく自宅の家賃も経費計上する方法があります。個人と法人の違い 第7回では自宅家賃を経費として計上する方法を、個人事業主と法人に分けて解説します。

自宅家賃経費に関する法人と個人の違い

自宅を経費にする点において個人と法人の最大の違いは「自宅部分を経費にできるかどうか」という点です。

個人事業主の場合、自宅部分、要するにプライベートな居住スペースについては経費計上が認められません。経費に計上できるのは、あくまで自宅のうち仕事に使用している部分のみです。

一方法人の場合、個人と比べて幅広く経費計上が可能です。自宅内の仕事用スペースはもちろん、社宅制度や住宅手当を活用することで自宅部分も経費に計上することができます。したがって自宅の家賃計上については個人よりも法人の方が節税面で有利です。

以下、個人と法人それぞれの自宅家賃の経費計上のポイントについて解説していきます。

個人事業主の場合

個人で賃貸契約している自宅を経費にするためには「自宅を個人事業の仕事場として使用している」のが前提です。事業として全く使用していないのに経費に計上するのはNGです。

自宅の一部を事業用に使用している場合、その使用している部分のみを経費に計上することができます。この考え方を「家事按分」といいます。

事業としての使用割合は、一般的には以下の基準で算出します。

  • 事業としての使用面積
  • 事業としての使用時間

でたらめな割合で経費計上するのはもちろんNGですが、だからといって1%単位での正確な割合が求められるという訳でもありません。ただし、50%を超えるような割合で経費に計上すると税務調査の際に否認される恐れがあります。

もちろん実際に50%超の割合で事業に利用しているのであればいいのですが、本来の用途が「自宅」であることを考えれば50%を超えるケースは稀だと言えるでしょう。家事按分の割合を大きく取りたい方はその根拠を明確に示すとともに、事前に税理士に相談しておくことをおすすめします。

法人の場合

法人については以下の3点に分けて解説していきます。

  • 社宅制度
  • 住宅手当を支給する
  • 個人名義の賃貸物件を法人に転貸する

社宅制度

社宅とは、法人名義で賃貸物件を借りて、その物件を代表者や従業員の住居として貸し出すことを言います。社宅制度では法人と個人との間で社宅使用契約書を交わす必要があります。

法人契約であるため、家賃は法人が全額支払います。ただし、社宅を使用する個人にも一部賃料を負担させる必要があります。一定の金額を給与天引き等の方法で個人から徴収するのが一般的です。

問題は個人からいくら徴収すればいいのかという点ですが、これは「賃貸料相当額の50%以上」を徴収しなければならないと定められています。

ここでいう「賃貸料相当額」とは実際に支払っている家賃の金額ではなく、固定資産税の課税標準額を基準に一定の計算をした金額です。具体的な計算は以下の①~③を合計した金額となります。

  1. (固定資産税の課税標準額)×0.2%
  2. 12円×(建物の総床面積(㎡)/3.3㎡)
  3. (敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

固定資産税の課税標準額は、その物件の所在地である都道府県税事務所に問い合わせると教えてもらえる場合があります。もう一つの手段としては物件のオーナーか管理会社に問い合わせる方法があります。

上記計算式による「賃貸料相当額」は、一般的に実際の家賃よりかなり低い価格が算出されます。したがって社宅を使用する個人から徴収しなければならない「賃貸料相当額の50%」は、概ね実際の家賃の5%~20%程度となることが多いでしょう。

本人から徴収する金額が少なすぎる場合、賃貸料相当額との差額は給与として所得税が課税されてしまいます。賃貸料相当額が明確に分からない場合、ある程度安全圏の金額を徴収するなど検討する必要があります。

なお、上記計算式は「小規模な住宅」に使用するものです。小規模な住宅の定義は、耐用年数30年以下の建物は床面積132㎡以下、耐用年数30年超の建物は床面積99㎡以下となっています。それを超える場合は計算方法が異なるため注意してください。

住宅手当を支給する

居宅を経費にする場合、社宅制度が有効です。しかし法人契約がNGの物件だったり、法人の規模が小さく審査に通るか不安というケースもあるでしょう。

その場合、自宅は個人契約のまま「住宅手当」を法人から従業員に支給することで自宅家賃を経費に計上することができます。役員に対して住宅手当を支給する場合、決算終了後3ヶ月以内の役員報酬改定時期に、住宅手当分を役員報酬に上乗せすることで対処できます。

個人名義の賃貸物件を法人に転貸する

従業員を雇用していない小規模企業や、起業間もない会社では事務所を借りずに個人で賃貸契約している自宅を「自宅兼事務所」として使用するケースも多いでしょう。

個人事業主の場合と違い、個人と法人は別人格です。したがって法人の経費に計上するためには、個人から法人に対してその賃貸物件を転貸するための「転貸借契約」を交わす必要があります。

契約書に定めた家賃を、法人から個人に支払います。家賃の金額は近隣の家賃相場や、賃貸物件のうち仕事用に使用している部分の面積等から割り出して決定します。

なお、法人から個人が受け取る家賃収入は、個人にとって不動産所得となります。ただし、オーナーに対する支払家賃のうち法人に転貸している部分は経費になります。したがって転貸の家賃と実際の家賃を同額にしておけば、不動産所得は生じないため確定申告の必要はありません。

まとめ

賃貸物件を経費に計上する方法について解説しました。個人の場合は自宅兼事務所として家事按分する方法が主となります。

一方法人では、自宅兼事務所に加えて社宅制度、住宅手当を支給する方法と幅広く自宅家賃を経費計上できます。家賃による節税については法人の方が認められる範囲が広く有利と言えるでしょう。法人成りを検討する際には本記事の内容を考慮に入れてみてください。