個人と法人の違い⑥ 経営セーフティ共済
個人と法人の違い 第6回は、経営セーフティ共済についてです。
節税手法として紹介されることが多い経営セーフティ共済ですが、それ以外にも多くのメリットがあります。事業者であればその制度を把握し、加入を検討してみる必要があるでしょう。
また、経営セーフティ共済に個人事業主として加入する場合と、法人で加入する場合に違いがあるのかどうか、その他途中で法人成りする場合の注意点などについても解説します。
経営セーフティ共済とは?
経営セーフティ共済は中小企業基盤整備機構が運営する制度で、中小企業倒産防止共済とも呼ばれます。経営セーフティ共済の目的は「取引先の倒産による連鎖倒産の防止」です。取引先が倒産した際に即時借り入れを行うことにより、連鎖倒産や資金繰りの悪化を防ぐことができます。
掛金の上限は800万円で、満額に到達すると解約手当金として800万円を受け取ることができます。満期に到達した後の再加入も可能です。
また、解約の際には掛金支払額を解約手当金として受け取れたり、取引先が倒産していなくても一時借り入れができるなど、非常にメリットが多い制度となっています。
経営セーフティ共済に加入できるのは、継続して1年以上事業を行っている中小企業や個人事業主です。その他詳細な条件については以下のURLから確認してください。
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/entry/eligibility/index.html
また、申し込みは金融機関の窓口等で行います。加入手続きの詳細は以下のURLを参照してください。
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/entry/procedure/index.html
経営セーフティ共済のメリット
取引先の倒産時に借り入れができる
経営セーフティ共済の最大のメリットは、取引先が倒産した際にすぐに借り入れができる点です。この場合における「倒産」の定義ですが、法的整理(破産手続開始等)、手形取引停止、私的整理などが該当します。
借り入れは無担保・無保証で受けることができます。また、原則無利子となりますが、借入額の10%の金額が積立金から控除されてしまう点には注意が必要です。
借入金の上限は以下のいずれか少ない方の金額です。
- 回収不能となった売掛金の額
- 納付した掛金総額の10倍(最高8,000万円)
なお、貸付金や不動産賃貸料の未回収については対象外となります。また、倒産した取引先に対して買掛金等の債務がある場合は債権と相殺して被害額が計算されます。
その他、「共済加入後6ヶ月以内に取引先が倒産した場合」や「取引先倒産から6ヶ月以内に借入手続きを行わなかった場合」など借り入れを受けられないケースもあります。詳細は以下のURLで確認してください。
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/about/proceed/index.html
掛金を経費に計上できる
経営セーフティ共済の掛金は支払った事業年度の経費に計上することができます。掛金は月額5,000円~20万円までの間で自由に設定することができ、増額や減額も可能です。
注意しなければならないのは、支払い時は経費となる代わりに解約金を受け取った際には収入として課税されてしまう点です。つまり経営セーフティ共済は純粋な節税ではなく「課税の繰り延べ」であると考えてください。
ただし、節税に使えるテクニックとして前納制度があります。1年以内の掛金を前納した場合、月々の支払額に加えてその前納分も経費に算入することができます。例えば期末付近に予想よりも利益が膨らんでしまった際に、1年分を前納することで最大240万円の経費を追加計上できるということです。
ただし、前納をした翌期も一括前納したい場合には、改めて前納の手続きが必要となります。手続きをしなかった場合は自動的に月払いに戻りますが、既に1年分を前払いしてしまっているため翌期の経費計上ができなくなってしまうため注意しましょう。
一時貸付金が受けられる
経営セーフティ共済では、取引先が倒産していなくても無担保・無保証で事業資金の借り入れを受けることができます。借り入れの上限額は掛金納付月数によって異なりますが、最大で解約手当金の95%までの金額が借り入れ可能です。
一時貸付金の返済期間は1年で、一括返済となります。また、令和5年6月現在における利率は年利0.9%です。
解約手当金が受け取れる
経営セーフティ共済はいつでも任意解約することができます。掛金の納付月数が40ヶ月以上であれば、掛金の全額を解約手当金として受け取ることができます。40ヶ月未満の場合は納付月数に応じて、掛金支払額の8割~の金額を受け取ることができます。
ただし、掛金納付月数が12ヶ月未満の場合は解約手当金は受け取ることができないため注意が必要です。
経営セーフティ共済に関する個人事業主と法人の違い
個人と法人の違い
まず、個人でも法人でも経営セーフティ共済の制度の内容が変わるということはありません。違いが生じるのは所得税と法人税の制度の違いによるものです。
まずは個人事業主のケースです。所得税は超過累進税率が採用されており、所得が高ければ高いほど税率が高くなります。したがって掛金支払時の節税額と比べて、解約手当金受領時の税負担が大きくなってしまう恐れがあります。
解約手当金は事業所得に含めて申告することとなっていますので、満期が訪れる年は何かしらの対策を講じておきましょう。
一方法人はどうでしょうか。資本金1億円以下の法人税率は以下のようになっています。
- 所得800万円まで…15%
- 所得800万円を超える部分…23.2%
所得が800万円を超えると税率はアップしますが、最大税率が45%の所得税と比べると半分程度の負担で済みます。解約手当金による税負担は当然考慮する必要がありますが、それでも個人と比べれば負担感は少なく済むでしょう。
個人事業主が法人成りした場合
経営セーフティ共済に加入している個人事業主が法人成りを検討する場合、経営セーフティ共済を解約するか法人に引き継ぐかを選択する必要があります。法人に引き継ぐためには法人成りから3ヶ月以内の申請が必要なので注意しましょう。
経営セーフティ共済の加入要件には「1年以上事業を行っていること」という要件がありますが、個人事業主時代の期間も含めて1年以上事業を行っていれば問題ありません。
なお、法人に引き継がないこととした場合は個人に対して解約手当金が支払われます。掛金納付月数が40ヶ月に満たなければ満額を受け取ることはできないため慎重に検討しましょう。
まとめ
経営セーフティ共済の概要と、個人と法人の違いについて解説しました。節税にフォーカスされがちですが、それ以外のメリットも事業者として助かるものばかりなので、ぜひ加入を検討してみてください。
経営セーフティ共済は支払い時に経費になる代わりに、解約時には課税されてしまう点が最大の注意点です。出口をしっかり把握しておき、なるべく早めに対策を講じることをおすすめします。